vol.18 Theater on Ice 2006 ④

COLUMN

2022.06.21

コラム

フィギュアスケート

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vol.18 Theater on Ice 2006 ④

報道の翌日、それまで6,000枚ほどしか売れていなかったチケットが、たった1日で約10,000枚も売れ、開催前には3公演全てが完売となったのです。報道の翌日、それまで6,000枚ほどしか売れていなかったチケットが、たった1日で約10,000枚も売れ、開催前には3公演全てが完売となったのです。

“すべての公演で9,000席が埋まる”

アイスショーをやり始めてから5年、初めての経験でした。日本のテニスの殿堂である有明コロシアムに初めてアイスリンクを張り、そこに満員の観客……思わず身震いしました。

来日予定のアマチュア選手はエフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア、金メダリスト)、ペアのタチアナ・トトミアニナ&マキシム・マリニン組(ロシア、金メダリスト)、アイスダンスのエレーナ・グルシナ&ルスラン・ゴンチャロフ組(ウクライナ、銅メダリスト)と10日ほど前に終わったばかりのトリノ・オリンピックメダリストたち。そこにトリノ・オリンピック金メダルの荒川静香選手が加わり、3種目の金メダリストが一堂に会することとなりました。しかも、彼らにとってはオリンピック後の初の演技を日本で披露することになったのです。
さらに日本代表の髙橋大輔選手、安藤美姫選手、アルベールビル・オリンピック金メダリストのビクトール・ペトレンコさん、ソルトレイクシティー・オリンピックのアイスダンス金メダリスト、マリナ・アニシナ&グエンダル・ペーゼラさん、世界選手権2位で女子ながらバックフリップで話題になったスルヤ・ボナリーさん、世界選手権2年連続3位の本田武史さんなどのプロスケーターが参加し、それにショーには不可欠のアクロバット・スケーターたちが脇を固め、大変に豪華なメンバーとなったのです。

いよいよ開催日となりました。初日の3月4日は土曜日で、昼、夜の2公演が無事に終了し、フジテレビも順調に収録を終えました。そしていよいよ翌日曜日の昼の最終公演を残すのみとなりややホッとしていたのですが、日曜日の朝、とんでもない事態が起こりました。
ペア競技の金メダリストである女性パートナー、タチアナ・トトミアニナ選手が、何と「フィナーレに出演しないで、早めにロシアへ帰らせてほしい」と言い出したのです。ロシアでプーチン大統領からオリンピックの表彰をされることになり、「表彰式には絶対に遅れてはならない」という理由からでした。そのためには出演の順番を変えて対応せねばなりません。ペア競技の女性が騒ぎだしたら男性パートナーのマキシム・マリニン選手もそれに乗らざるを得ない様子でした。プルシェンコ選手も同じオリンピックで金メダルを獲得しており、自身の考え方は別にしても彼女の意見は無視できません。

そこで、有明から成田空港までの所要時間を計算してみました。フィナーレに出演してから空港へ出発しても十分に間に合うことがわかり、タチアナ選手に「大丈夫だ、問題ない」と説明したのですが、もはや日本人の言うことなど信用できない、という状態になっていました。
そこで、彼らが乗る予定の航空会社のスタッフに、試合会場まで来て「絶対に予定の便に乗れます」と言ってもらえないかと相談したのですが、相手が金メダリストとはいえ「さすがにそれは難しい」とのつれない返事。それならば、(いま思えば安直な策でしたが)ロシア選手に顔を知られていない人に航空会社の社員役を演じてもらおうという話になりました。ちょうどそこに、スーツ姿の顔の知られていない新任の代理店の方がいたので、まさに渡りに船とばかりにお願いして名演技(?)をしてもらったのですが、タチアナ選手にはまったく通じず、結局、こちらが折れるしかありませんでした。
大慌てでプログラムを変更し、タチアナ&マキシム組、プルシェンコ選手のロシア勢3人の出番を前半に移し、彼ら3人はフィナーレに出ないで成田空港に向かいました。フィナーレでは荒川さんとプルシェンコ選手が男女それぞれの金メダリストとして手をつないで滑るシーンを予定していたのですが、それもかなわず……。プルシェンコ選手の代わりに本田さんにお願いし、何とか最終公演が終了しました。

成田空港に向かった3人はというと、相当な時間的余裕をもって到着した、とスタッフから連絡がありました。やれやれ、もうあのペアは呼びたくないなぁ、と思いました。Theater on Ice は結局この1回のみで終わったのですが、私にとって忘れられないショーの一つとなりました。